2018年3月17日土曜日

Peachとバニラエアが統合へ!(1)両社のスタイルの違い

ANAホールディングス(東京都港区、東証1部上場)は、格安航空(LCC)部門の事業会社であるPeach Aviation(MM=APJ、大阪府田尻町)とバニラエア(JW=VNL、千葉県成田市)を統合させる方針を固めました。東京で発行されている経済専門雑誌『週刊ダイヤモンド』が16日に報じ、その後に大手マスメディア各社が追随報道をしたものです。

ANAHDの下には、本格航空(FSC=フルサービスキャリア)部門を担当する中核事業会社の全日本空輸(NH=ANA、東京都港区。弊誌では通常、ANAと表記します)と、LCC部門のPeach、バニラエアがあります。このうち、Peachは元々、ANA出身の井上真一CEO(最高経営責任者、他社の社長に相当)がANAの社内ベンチャーから始めて、香港の投資ファンド『ファーストイースタンインベストメント』を資金パートナーに迎える形で立ち上げられた会社。一方、バニラエアはANAHDとAirAsia(AK=AXM クアラルンプール、マレーシア証取上場)の合弁で作られた初代エアアジア・ジャパン(JW=WAJ)が前身で、会社に求める考え方の違いからAirAsiaが資本を引き上げたために、ANAHDの100%出資となってブランド名を変更、ここまでやってきました(前記事「エアアジア・ジャパン改めバニラエア』12月就航」参照)

PeachはLCCの本分ともいえる攻撃的な運賃設定で、本拠地関西空港をはじめとする拠点空港の国際的な価値の向上に寄与しようとしたのに対し、バニラエアは『レジャー・リゾート路線に特化したLCC』という独自のスタイルを打ち出し、ANAHD直接の出資比率が低かった時代のPeachとも違う考え方で攻めようとしました。成田空港は、FSCたるANAの国際線部門において言わずと知れたスーパーハブ。ANAと同じことをやったのでは会社が成り立たないので、先に就航していたジンエアー(LJ=JNA ソウル市江西区、韓国証取上場)やエアプサン(BX=ABL、釜山広域市)など韓国系LCCの成功体験を参考に、事業方針を立てていったというのは業界内では周知の事実です。

それに対し、Peachの本拠地の関空はANA国際線の便数が成田と比べて圧倒的に少なく、第2ハブの那覇空港(沖縄県那覇市)はANAにとって貨物部門のハブではあるものの旅客の国際線便はないため、Peachがハブとしての価値を確立する過程で攻めの姿勢を打ち出せる環境にありました。そこでは、欧州最大手のLCC、ライアンエア(FR=RYR アイルランド・ダブリン、LSE上場)の成功例が参考になっていました。それによって那覇~バンコク(スワンナプーム)線などFSCでは採算の取りにくかった路線を新たに開拓したり、海外就航地から乗り込んでくる形での羽田空港(東京都大田区)進出など逆転の発想をPeachにもたらしました(前記事「Peachが羽田初上陸!関空~台北は1日3便に」参照)

しかし、バニラエアが16年10月の冬ダイヤで開設した台北桃園~ホーチミンシティ線は、それまでのバニラエアの拡大政策とは毛色が異なるものでした。LCCのバニラエアに、FSCのANAとの相互補完関係を迫るという、Peachでは絶対あり得ない判断。案の定、LCCの採算ラインと言われる搭乗率80%には達せず、1年半で撤退に追い込まれてしまいます(前記事「バニラエア、ホーチミンシティから撤退へ」参照)

成田~台北桃園・高雄といった日本と台湾を結ぶ路線では、Peachやタイガーエア台湾(IT=TTW)といった競合LCCはもちろん、FSCも巻き込んだ激しい価格競争になっていて、いくらバニラエアが完全子会社だからと言っても収益ギリギリの線で低空飛行していたのではANAHDにとって、足を引っ張るだけの存在になりかねません。バニラエアが現体制になってから5年。そろそろ抜本的なテコ入れをしなければならない状況に、ANAHDは追い込まれていったのです。